基礎研WEB政治経済学用語事典

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 恐慌

恐慌とは単に「景気循環」によって発生する「不況」とは区別して捉えるべきもので ある。確かに景気循環による不況の局面においても、過剰生産や投資の停滞、信用不安、 企業の倒産、労働者の解雇そして消費の縮小などの現象は発生する。しかし、恐慌はそう した状況をさらに社会全般に蔓延させ、資本主義的生産システムの全課程の活動を停滞さ せ、時には停止させ、そのメカニズムを破綻させる場合さえもある。また、グローバリゼ ーションといわれる今日では、一国内の恐慌現象が急速に全世界的な危機へと伝播する。 すなわち生産・流通・消費のあらゆる部門の経済活動が各国で停滞するばかりでなく、2008 年夏以降のように経済社会全体が非常に深刻な世界恐慌の危機に陥ることになる。 それでは、こうした恐慌はなぜ起こるのだろうか? 現代の資本主義経済システムにおいては、各資本は、自由にいわば「無政府的に」社会 の購買能力を超えて、最大限の利潤の確保のための生産競争への参入を余儀なくされる。 その一部は貿易(輸出)による国外の需要に委ねることもあり得るとしても、資本の生産 能力はたえず上昇しており、たえず過剰生産恐慌の発生する要因が存在するのである。 最初の近代的恐慌は1825 年イギリスにおいて発生したが、その後19 世紀から20 世紀 にかけては、ほぼ周期的に過剰生産恐慌に見舞われ、時に深刻な戦争にまで発展した事も あった。そのことから、理論的には、恐慌の発生は基本的に資本の回転期間に規定されて 循環的に発生するものであると捉えられる。ある部門への投資が相対的に有利である場合、 多くの資本がその分野に集中し、それが一定の頭打ちになると一斉に投資は激減するから である。しかるに20 世紀後半期になると「オイルショック」や「スタグフレーション」な どで知られるように、資源・エネルギー部門への投機マネーの暗躍も関わって、より複雑 な形で恐慌が勃発するようになったのである。 現代の資本主義経済は、その出発点から銀行融資や株式の発行、社債の発行などのいわ ば虚構の他人資本を調達して成り立っている。企業が収益をあげられず、銀行や金融機関、 株式市場が投資資金を回収できなければ、その企業の株価は暴落し、社会の信用機能は麻 痺せざるを得なくなるのである。また今日では,国内的・国際的に、産業部門間の連関性 が強まってきており、ある主要国で発生した経済的な混乱が、すぐに他部門または国際的 な混乱となって増殖し易い環境にあることを重視しなければならない。すなわち部分的な 不況が直ちに全般的な恐慌現象に発展する可能性があるのである。アメリカのサブ・プラ イム・ローン危機がその後投資・金融機関の破綻に波及し、ついに製造業を巻き込むなど 大きな社会的混乱をもたらしている状況は、まさに恐慌の現場の局面である。 価格水準の低下と需要の減退に象徴される恐慌からの脱却の方向としては、商品滞貨が 自然に改善され過剰な生産諸力が破壊されることによって、潤沢な貨幣資本が遊休資本と 2 なり、利子率が低下し、相対的過剰人口化した労働力には低い賃金率等がもたらされるこ とによって徐々に好況局面に向かうものだとされている。しかし恐慌が労働者に多大の犠 牲を強いるものであり、それが資本主義経済の続く限り避けられないものであるとするな らば、資本主義経済システムに対して積極的に政策介入し、その被害の転嫁を防止しなけ ればならない。労働者達はそうした力を蓄積しなければならない。