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 現代資本主義研究会 > 2008.2.9

日時:2008年2月9日(土) 13:00-17:00
会場:京都大学 法・経総合研究棟311演習室
共催:アジア・アフリカ研究所
テーマ:ラテン・アメリカは世界を変えるか
参加者:30名

報告者
 河合恒生 氏 ベネズエラと21世紀の社会主義
 山崎圭一 氏 新自由主義から脱却できないルーラ政権の課題
 ―ブラジル「福祉国家」の展望―
 吉川久治 氏 国際通貨問題とラテン・アメリカ
 大西広 氏 比較体制論から見たキューバとベネズエラ
コーディネータ
 藤岡惇 氏







参加記
 去る2008年2月9日、基礎研とアジアアフリカ研究所の共催研究会が京都大学において行われた。今回は「ラテンアメリカは世界をかえるか」を統一テーマとして、藤岡惇氏の司会のもと、山崎圭一氏、河合恒生氏、吉川久治氏、大西広氏の四名による報告をお聞きした。
 山崎報告は、ルーラ政権下におけるブラジルの、福祉国家成熟への展望を語るものであった。ブラジルの好調なマクロ経済状況は90年代の新自由主義政策による。しかし、それに伴って貧困対策は置き去りにされた。左派のルーラ政権の誕生は、新自由主義的貧困に対する批判が生み出したものであるといえよう。ただ、現状の貧困対策は現金給付的なものに偏っており、生活基盤を支える社会資本整備への投資が少ないことが指摘された。また環境対策も十分ではない。これらの状況では、未熟な福祉国家であるといわざるをえないだろう。
 河合報告は、ベネズエラのチャベス政権下のボリーバル社会主義と21世紀の社会主義を論じるものであった。新憲法の制定が民衆により否定されたのは、独裁に対する危機感によるものである。ベネズエラにおける協同組合企業に対する民衆の関与、すなわち参加民主制についての分析が、マルクスの協同組合論とも併せて論じられた。同氏も執筆されている『チャベス革命入門』(澤田出版、2006年)も併せてご覧いただきたい。
 吉川報告は、ラテンアメリカにおける金融協力の問題を語るものであった。興味深いのは、間接金融である銀行の役割が重要視されている点である。周知のように日本における金融ビックバンは、間接金融から直接金融への資金調達方法の変革をもたらした。ラテンアメリカにおける金融状況が、証券市場の未発達によるものであるかいかんは、興味深い論点である。なおラテンアメリカにおける地域金融協力としての銀行設立は、新自由主義的世銀IMF体制に対する対抗軸として見てとれるとされた。
 大西報告は、チャベス政権下の社会主義的政策を比較体制論から論じるものであった。特に意識されたのは毛沢東下の中国である。なかでも論点は、土地制度へと向かう。史的唯物論からすれば、土地解放は生産力発展のために正当化される。それらの観点もふまえ、ベネズエラへのいくつかの提言がなされた。なお、革命第一世代が生き残っているところ(たとえばキューバ)は経済改革がうまくゆかず、革命第一世代がいなくなったところ(中国、ベトナム、北朝鮮など)ではうまくいっているという指摘は、世代交代の問題をうちに含んだものであり、興味深い問題提起であった。
 以上の論点を通じて、生産を担う企業あるいは協同組合を取り巻く制度の分析が必要であると感じた。とりわけ、資金調達のあり方、さらにいえば金融制度といった無形インフラの整備如何に関して興味を持たされた。銀行が担うのか、証券市場が担うのか、あるいは市民の出資か、国家財政か・・・これらの問題は、企業や協同組合のもつ性格そのものを規定するはずである。社会資本整備の担い手が誰であるかという点にも関連するが、つきなみな結論でいうと「公共性」をめぐる議論が、ラテンアメリカのおいても全てにおいて必要であるということである。(文責・基礎研事務局)